暇人映画レビュー

バカが書いた映画レビューです 初心者なので拙いですが、よろしくお願いします

『ヘイトフル・エイト』(2016)

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•概容

舞台は南北戦争が終わってすぐのアメリカ。難ありの8人が吹雪の為一時的に避難した小屋に集まった時、悲劇が始まる。
70ミリ上映ということで話題になった。
今作、タランティーノ長編映画監督作品として8作品目であり西部劇は前作の『ジャンゴ 繋がれざる者』に続き2作目。

•感想

一度タランティーノ監督が書いた脚本がネット上に流出し一時は公開が危ぶまれたが友人でもあるサミュエル・L・ジャクソンの説得もあってか話の展開を若干変え撮影を開始した。
同監督のみんな大好き『レザボアドッグス』に次ぐ密室劇犯人探しミステリーだと事前の情報であったのでこれまた期待してしまう。
まあつまらないということは絶対にないだろうと、そこそこ安心した心持ちでいざ鑑賞へ。

結論から先に述べるとこれは『レザボアドッグス』と一見似ていてもどちらかと言えば前作『ジャンゴ 繋がれざる者』、前々作『イングロリアス・バスターズ』同様ハッキリとした怒りのメッセージが込められた、タランティーノ作品の中では比較的攻めた作品であった。
映画全体の時間は2時間半あり結構なボリューム。普通の映画(?)では2時間半はかなり長めではあるがタランティーノ映画の独特な雰囲気にどっぷり浸るにはかなり適した時間であると言える。
まずは今作に出てくる登場人物のめちゃくちゃ簡単な紹介から。

①哀愁を感じさせる外見だが心の内は黒人差別をしてきた者たちへの溢れんばかりの憎悪が込められた黒人。
②生死問わない賞金首を縛り首にしもがき苦しむ姿を見るため生かしておくというモットーを持った賞金稼ぎ。
③その賞金稼ぎに捕まったタフな女犯罪者。
④新任保安官でどこか初心だが、保安官着任前は黒人虐殺に一役買っていた男。
⑤明らかに嘘で塗り固められた訳ありカウボーイ。
⑥どこか鼻につくような胡散臭さを感じるジェントルマン被れの処刑執行役人。
⑦一見人柄はかなり良さそうなメキシコ人。
⑧過去に南北戦争で黒人大虐殺をしていた元将軍。

とざっくり。
軽度なネタバレになってしまうがとりあえず全員悪人である。嘘で塗り固められた悪人が同じ屋根の下で一夜を共に過ごさなければならない。お互いを探らず不干渉で部屋の隅々で一夜を共に過ごせばこれ幸いではあるがそんなことはもちろんなくタランティーノ節炸裂なトンデモ展開がされ地獄絵図と化していく娯楽性満載の密室劇が起こるのである。笑うしかない。笑いっぱなし。
ここで着目したいのが様々な人種がいるということである。黒人、白人、イギリス人、メキシコ人、男性女性、この多種多様な人間達が同じ屋根の下で過ごす、正にアメリカ合衆国そのものである。その小屋で行われているのは黒人差別、黒人の白人に対する憎悪、過度の女性差別、イギリス人の胡散臭さ、メキシコ人への対応と正にアメリカが南北戦争以後辿ってきた歴史そのものを体現している。
先に述べた通り今作は同じ密室劇である『レザボアドッグス』よりかはどちらかと言えば前二作の『ジャンゴ 繋がれざる者』、『イングロリアス・バスターズ』と似ている。強烈な怒りのテーマを感じるからだ。
ジャンゴ 繋がれざる者』は黒人奴隷が主人公で白人達をバンバン撃殺し同士達を解放するという内容。ここで重要なのは黒人奴隷を解放したのが黒人である、ということである。劇中描写されている黒人への拷問、扱いは正直目を背けるようなことばかりであり終始そのようなシーンが続く。しかしそれはフィクションではなく全て実際に起こっていたことであり人類史の汚点である。ただ映画自体は全くもってノンフィクション。タランティーノはあくまで"娯楽作"として黒人差別を語り、その時代ではいるはずもない黒人ヒーローを創り上げたのである。
これは『イングロリアス・バスターズ』にも言える。第二次大戦時にドイツが行ったユダヤ人迫害、映画フィルムの廃棄は事実で目を背けたくなるが思いっきり脚色したフィクション映画であり、ファンタジーな世界である。
今作も同様アメリカではこの小屋で起きためちゃめちゃなトンデモ展開同様のことが起こってきて、タランティーノなりの皮肉が効いている。そんなトンデモない皮肉をもB級テイストに仕上げて極上のエンターテイメントにしたタランティーノの手腕が凄まじいとしかいいようがない。

他にも、あ、タラちゃんはやっぱ映画沢山観てて本当に大好きなんだなぁと思わせるぐらい莫大なオマージュの嵐と緻密に計算され尽くした小物と登場人物の絶妙な配置、さりげに貼られている伏線、そしてなにより際どいカメラワークが効果的。

•まとめ

タラちゃん特有の会話劇の嵐なので好きな方は楽しめる。あまり得意ではないという人でもミステリー要素があるのでそれなりに楽しめる方ではある。
日本ではあまり話題となっていない作品ではあるが、個人的に2016年暫定1位の作品。
ぜひ劇場まで!